イベントで終わりにしない、改善プロセスとして「使う」UXワークショップの極意

皆さまこんにちは。
ルート・シー CXO(Chief Experience Officer)の小澤です。

当記事では、UXの重要性は理解しているものの何から手を付けたらいいか分からないという方や、UXワークショップを実施した経験はあるが一過性のイベントで終わってしまったという経験をお持ちの方に対し、各種ワークショップの設計・ファシリテーションを担当した立場から改善プロセスとして「使う」UXワークショップの極意をご紹介したいと思います。

前提:UXワークショップとは?

UXワークショップとは、対象サービスの利用者に対する理解をベースに、さまざまなフレームワークを用いて参加者間の活発な対話を生み出し、自社やサービスの強み・弱みや課題、戦略などを導き出すものです。
導き出す対象によりプログラムは異なりますが、主にカスタマージャーニーマップなどを用いて、サービス開発・情報提供側の視点ではなく利用者視点で「ユーザーが欲しているのは何か」「どんな価値を提供すべきか・できるのか」ということを導くのが特徴です。

※ワークショップの実施例についてはこちらからご覧いただけます。
UXワークショップで自社の課題を明確に/株式会社ホワイト・ベアーファミリー

※カスタマージャーニーマップを利用した提案の事例はこちらからご覧いただけます。
パークの魅力を伝え、来場への期待感を盛り上げるサイトにリニューアル!/アドベンチャーワールド

本題:「使う」UXワークショップのポイント

ポイントをお伝えする前に結論を述べてしまうと、「使う」ワークショップで大事なのは、目的・目標・成果物を押さえ続けることと、発散と収束を充分に行うことに尽きると私は考えています。

また、ワークショップで得られる成果としてよく「認識共有」や「合意形成」が挙げられますが、その場で「合意した気がする」程度では残念ながらビジネスの場で「使う」ほどの持続性がありません。

ではここから、これらの条件をどうクリアしていくのか見ていきましょう。

【ワークショップ前】事前の握りが肝心

「はじめが肝心」とはよく言いますが、UXワークショップについても事前の認識合わせが大事です。そのため、ヒアリングやワークショップの設計後、開催前にクライアントご担当者さまと以下の2点のポイントについてお話し、調整を行います。

ポイント1:目的・目標・成果物について合意する

まず最も大事なのは、クライアントさまとワークショップ設計を行うファシリテーター間での「目的」「目標」「成果物」という3点における合意です。
「目的」「目標」というのは似た言葉ですが、少しニュアンスが異なりそれぞれ以下を意図しています。

目的 目標 成果物
なぜこのワークショップを行うのか その場で何を達成するのか(具体的な成果) 目的・目標を達成した着地の姿

特にこの記事のタイトルでもある「イベントで終わりにしない、改善プロセスとして『使う』」という観点で、目的と成果物を定義することは「何を明らかにするのか」「明らかになった事柄を何にどう使うのか?」の認識合わせに有効です。

また目標の「その場で何を達成するのか」というのは、主に参加者間の関係性構築や認識統一が入ることが多く、ワークショップ後のプロセスを推進するエネルギーとなります。

ポイント2:ワーク内容と狙いの共有、調整

ワークショップは多くのイベント同様、事前に質を推し量るのが難しいものです。
一方で、何時間も社内の方を一度に拘束するわけですから、それが有効なものかはご担当さまにとっては大きな関心事ですし、改善プロセスとして使おうとすればこそ「本当に役に立つのか」というチェックはなおさら重要です。

そこで事前にひとつひとつのワークについて内容と狙いをご説明し、はじめに定めた目的・目標・成果物を得るために不十分な個所があれば調整を行います。

例えば、とあるアプリのデザインコンセプトを定めるワークショップの事前MTGでは、ペルソナをどのように置くのかという点に懸念が挙がり、主にこれまでの顧客層をペルソナに置くのか、ニッチな層を狙うのかなど戦略とのずれが無いように議論する時間をワークショップ内に設けることにしました。

このように、ワークショップ前の合意形成を行うことで「思ったものと違った」「その場では楽しかったけどそれで終わってしまった」といった事が無いように事前にコントロールすることが可能になります。

【ワークショップ中】データ活用で精度UP、ワークショップでも批判OK!?

ワークショップ内容においても工夫がいくつかあります。
ここではそのうち3つのことをご紹介します。

定量情報から事実を、定性情報からは動機を

UXワークショップでは主にユーザーインタビューやカスタマージャーニーマップなどを使って利用者の状況や行動、感情を導き出しますが、そのベースとして用いるのはGoogle Analyticsやアンケートなどの定量データです。
よく「定量調査と定性調査のどちらが重要か」というご質問をいただくことがありますが、定量データは事実(結果)や予測を示すもので、定性データは「なぜそうなったのか」を導くものであり、ルート・シーではこの両方が重要だと考えています。そのため、UXワークショップでも定量データをベースに設計しています。
定量・定性の両面から検討をすることで、よりビジネスの現実に即したものになります。

いまは発散か、収束か。収束フェーズでは建設的な批判も許容

ルート・シーのUXワークショップは主に発散と収束を繰り返すように設計されています。
これはデザイン思考において「ダブルダイヤモンド」と言われるモデルですが、D.Aノーマンの「誰のためのデザイン」やGoogleのデザイン思考プロセスとして紹介されているものです。

ダブルダイヤモンドの図
ダブルダイヤモンドモデルになぞらえて、ルート・シーのUXワークショップ行程を表現

よく「ワークショップでのアイディアはぶっ飛んで良し、批判はNG」とお伝えすることも、ほかワークショップでそう伺うこともあるのですが、これは実は発散フェーズでの話です。
上記のように選択肢をたくさん作る発散フェーズではこの幅を可能な限り広げるため、発想を制限するような言動は極力しないように参加者の皆さんに促しているものです。
一方収束のフェーズでは、言葉の定義を明らかにしたり、競合他社との差別化やサービス開発状況・ロードマップなど現実的な議論で収束を行います。

この時、見出しのような「建設的な批判」はむしろ大歓迎です。あえて批判的な意見を言う”devil’s advocate(悪魔の代弁者)”などという言葉もあるくらいで、この批判に対して議論を重ね、新たな解に昇華させることがワークショップをプロセスとして「使う」ためには必要な行程となります。

例えばサービスのポジショニングを考えるにあたり、望ましいのは下図の★ゾーンですが、B、Cに当たるアイディアが出た時に「それは本当に当サービスらしい提供価値でしょうか?」といった建設的かつ批判的な意見を投げかける、といったイメージです。

考えるポイント(3C、他者との差別化)の図

またワークショップ中は頻繁に発表機会と質疑応答を設けることがありますが、これも収束の一環で、言語化を通じて次の発散フェーズの土台となる認識が合っているかを確認するためです。
このような発散と収束、建設的な批判も含む議論で、柔軟な発想と現実的な検討を実現します。

ちなみに前述のワークショップ前の認識合わせで余計な疑念(本当に有効なの?という心配)を払拭しておくことは、発散フェーズで突拍子もないアイディアを許容し、収束フェーズで客観的な議論をするための心理的安全性の確保という点でも重要だと私は考えています。

参加者に意思決定、意思表示を求める

ワークショップの中でしばしば含める行動に「投票」があります。
これはどのアイディアが良いかなどで行うものですが、多数決をとるためではなく、参加者各自が意思決定をする機会を設けるために採用しています。「旗幟鮮明(きしょくせんめい)」という言葉がありますが、アイディアの付箋にシールを貼るなどし、どのアイディアが共感を多く集めているかを見える化すると同時に、各自の意思決定と説明責任を迫るものとなります。多くの場合、選んだ理由をきっかけに議論を展開します。

こう書くとなんだか怖そうな感じがしてしまうかもしれませんが、誰一人「お客さん」にしない、全員が「参加者」として議論を交わすことが、足並みを揃えて後々プロジェクトを進めていくために重要であるため、参加者の皆さんが発言しやすいような前向きな空気に満ちたワークショップを心掛けています。

【ワークショップ後】報告書までがワークショップ

ワークショップ自体は同時性・変動性が高いもので、どんなに気付きがあり、意義があったとしてもそのままにしておくと空気のように拡散してしまうものです。
そのため、その場で行った議論や合意に至ったアイディア、戦略について、後から振り返ることができるようにしておく必要があります。
報告書ではワークの意図や、各ワークで行った議論の概要を記載します。
参加者を明示するのも議事録と同様の考え方で、誰との間で認識合わせを行ったかを明らかにするためです。

考えるポイント(3C、他者との差別化)の図

また、ワークショップの全容が把握できる報告書という形で記録を残すことで、決裁者が参加できなかった場合でも合意プロセスを共有することができます。

最後に:私たちと一緒に考えてみませんか

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の記事では、UXワークショップについて、イベントで終わりにせず改善プロセスとして「使う」という観点で紹介をしましたが、いかがでしたでしょうか。
プロセスとして有効活用できるワークショップのイメージをお持ちいただけたのではないでしょうか。

「UXワークショップ」という名で利用者を起点に考え進めていきますが、デザイン思考やマーケティングのフレームワークを用い、参加者の皆さんがオープンな心持ちでビジネスやサービスのあり方について集中的に考える時間のお手伝いをさせていただいています。

「こんなことをワークショップで考えてみたい」「顧客視点を社内にもっと取り入れたい」という想いをお持ちの方がいらっしゃったら、ぜひお任せください。
イベントで終わりにしないUXワークショップの企画設計・ファシリテーションで御社のサイトやサービスの改善をぐぐっと進めます。

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