どうやって対象者を手配する?UXリサーチのリクルーティング
こんにちは。UXリサーチャー(HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト)の野村です。
webサイトやアプリの制作において、ターゲットのニーズを理解するためにUXリサーチは欠かせません。 ユーザーインタビュー(デプスインタビュー)やユーザビリティテストなどのUXリサーチを成功させるためには、適切な対象者を手配するリクルーティングのプロセスが必要不可欠です。
本記事では、UXリサーチでのリクルーティングについて、その重要性から具体的な手配方法、リクルート方針策定の考え方、進め方、注意点まで、初めてUXリサーチを発注する担当者が知りたい情報を網羅的にご紹介します。
目次
※UXリサーチの対象は一般的に製品・サービスやそれらのマーケティング施策など多岐にわたりますが、本記事ではweb施策・webサイトの話を中心にお伝えします。
1. リクルーティングの概要
リクルーティングとは何か
UXリサーチに限らず、市場調査のアンケートやグループインタビューなどの文脈で使われる「リクルート/リクルーティング」は、「調査の対象者を集める(こと)」という意味のリサーチ用語です。
リクルーティングとは、調査に参加してもらう適切な対象者を見つけ出し、参加を依頼するプロセスです。これは単なる参加者の募集作業ではなく、リサーチの成功を左右する重要なステップです。
なぜリクルーティングが重要なのか
リクルーティングが重要な理由は、リクルーティングの質が調査結果の質を左右するという点です。ターゲットに合った参加者を集めることで実際のユーザー行動やニーズを正確に把握することができますが、適切でない対象者をリクルートしてしまうと調査目的にそぐわない結果となる可能性が高くなります。
例えば中古車販売のwebサイトをリニューアル対象とした調査の場合、「40代男性」がターゲットだったとして、対象者Aさんは40代男性でこの点だけでみれば合致していたとしても、都心に住んでおり実は普段ほとんど車に乗ることがない方であったならば、調査に参加してもらっても、車の売り買いに関するリアルな情報を得ることは難しいと言えます。
同様にオーガニック系スキンケア商材を扱ったECサイトのユーザビリティテストをする場合、集めるべき対象者は「オーガニックコスメに興味があり、かつオンラインショッピングをよく利用する方」などの条件に該当する方である必要があります。
このように「該当テーマについてリアルな話が聞ける方」という点がポイントであり、その「該当テーマ」の範囲の見極め、つまり解決したいweb施策やマーケティングに影響のある適切な範囲においてリアルな体験を持っている対象者選びが、プロジェクト成功の鍵と言えるのです。
2. リクルート方針策定の考え方
リクルーティングでは、調査プロジェクトの初期段階において、事前調査で市場全体から年齢・性別・職業などの属性を基におおまかに顧客をグループ分け(セグメンテーション)します。
分けたグループ(セグメント)の中から施策に親和性が高いものを選び出します。
選んだセグメントについてさらに事前調査を進め、仮説ペルソナを立案します。
仮説ペルソナができたら、それに近しい人物をアサインできるよう、リクルート方針を策定します。
基準となる仮説ペルソナ・仮説カスタマージャーニーマップを作る
対象サービスやwebサイトのターゲットに関する情報について、過去調査データやデスクリサーチなどによって情報を収集し、仮説ペルソナや仮説カスタマージャーニーマップを作成します。(すでペルソナがある場合はそちらを使用します)
仮説ペルソナとは
ペルソナとは、ユーザーの代表的な価値観・行動・背景などを一個人のプロフィール風にまとめたものです。
プロジェクトの目的によって含める情報は変わりますが、年齢・性別・職業などの属性情報、価値観・ライフスタイル・関心事など心理的側面を示す情報、webサイトやサービスにおける利用のきっかけ、利用用途、利用頻度、情報収集方法など、ターゲットの行動に関する情報などを含めます。
ターゲットの代表的な特徴をリアルな人物像としてまとめることで、例えば「この人は果たしてこのwebサイトに来てくれるだろうか?」などと想像して違和感を感じた箇所を修正するなど、webサイトのあり方を考える上で鍵となる情報になります。
仮説ペルソナはユーザーインタビューを実施する前に、収集可能な情報をもとに仮説として作ります。ユーザーインタビューの実施後に導出する本格的なペルソナに比べると情報の解像度やリアルさといった点で劣りますが、リクルート方針策定やユーザーインタビューの設問設計で重要な役割を果たします。
サービス対象者やwebサイト利用者へのアンケート結果や、webサイトのアクセス解析などの定量データ、過去の利用者インタビュー等の定性データ、サービスの全体像がわかる資料などがあると、精緻な仮説ペルソナをつくることができます。
仮説カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップとは、複数のタッチポイントをまたいだ一連のユーザー体験の全体像をまとめたものです。ユーザーの行動や感情を含め視覚化することで、時間軸の観点でユーザー体験を関係者間で共有できるようにします。
仮説カスタマージャーニーマップとは仮説ペルソナの時系列のユーザー体験をプロットしたものです。
リクルーティングにおいて仮説カスタマージャーニーマップは必須ではありませんが、サービスやwebサイトによってはペルソナの時系列の変化がサービスやwebサイトの利用において重要であることもあります。その場合は仮説カスタマージャーニーマップを作成することで、ペルソナの時系列の行動の中でどの部分に焦点を当てるべきか(調査対象とすべきか)を判断することができます。
条件を抽出する
仮説ペルソナ(や仮説カスタマージャーニーマップ)ができたら、対象者のサービスやwebサイトの利用頻度、該当分野の熟練度など、テーマとする利用行動をとる人物はどのような属性を持っているか、といった観点でリクルート方針を設定していきます。 詳しくは次章で解説します。
3. リクルート方針に含める一般的な項目
リクルート方針は下記のような形で作成します。
リクルート方針の例
属性の種類 | 条件 | 優先度 |
---|---|---|
人数 | 中古車購入経験者 3名 | 必須 |
許諾について | インタビューの録画や録音に同意いただける方 | 必須 |
人口統計学的な属性 | 男性 会社員 30代~40代 地方在住 | 中 |
サービスの利用 | ご自身の意志で中古車を選び、購入した経験が1度以上ある方 | 高 |
webサイトの利用 | 一般的な中古車販売サイトを閲覧したことがある方 | 高 |
サービス内の特定機能・コンテンツの利用有無 | 一般的な中古車販売サイトで問い合わせをしたことがある方 | 中 |
今回改修対象の中古車販売サイトを閲覧したことがある方 | 低 |
属性の種類・条件は調査目的によって異なりますが、ここからは一般的なリクルート条件の項目をご紹介していきます。
(優先度設定についても詳しくは後述します。)
対象者の人数
1ペルソナ(ターゲットの種類)×最低3名~
アンケートなどの定量調査に比べ、ユーザーインタビューやユーザビリティテストにおいては、さほどサンプル数を必要としません。
「1ペルソナあたり最低3名から」と設定している理由は、1名の場合だと比較対象がいないため、その対象者が母集団において一般的な行動を取る方かどうかを判断できないからです。そうなるとエビデンスというよりは「この結果はもしかしたら偏っているかもしれない」という注意書き付きの参考情報としてしか使えません。
2名であればAさんとBさんで比較ができ、共通項を見つけることができます。
3名以上なら特定の属性において「中間の方」を設定できるので、例えばサービスの利用頻度が高い人・低い人・中程度の人を選んで比較する、といったことも可能になります。
得られた結果の分析においてもAさん・Bさん・Cさんの中で偏りが突出している情報について「これは外れ値だ」と推定でき、客観性を担保しやすくなります。
ユーザビリティテストでは1ペルソナあたり5名で7~8割程度のサイト課題を見つけることができると言われています。
それ以上の人数で実施すればより多くの課題を見つけることができますが、重複した結果も出やすくなります。
ユーザーインタビューでも4人目以降は新しい発見が少なくなっていくという経験上の実感があり、実施人数によってコストパフォーマンスが悪くなっていくため、ルート・シーとしては1ペルソナあたり3名~5名程度をオススメしています。
一方で異なる複数のターゲットが存在する場合は、差異の大きさにもよりますが、得られる結果も異なってくるため、その分だけ人数を増やす必要があります。
許諾について
調査記録の見直しのため、調査実施中は基本的に録画や録音を行います。
そのため「録画や録音に同意いただける方」という点は基本的に必須としています。
人口統計学的な属性
性別・年齢・居住地・家族構成・職業など、必要に応じて設定します。 目的にもよりますが、UXリサーチではこういった属性よりも行動や価値観の方を重視するため、これらの属性は最低限のものに限定したり、優先度をあまり高くしないようにしたりするケースが多くあります。
属性を細かく設定する場合
ターゲットがかなり限定されているコンテンツの場合などでは、下記のように細かく設定する場合もあります。
職業 | 詳細条件 |
---|---|
学生 | ●●入試で受験した●●学部の●回生 |
会社員 | ●●部門の経歴●年程度の方 |
主婦 | 小さなお子さんが二人以上いらっしゃる方 |
サービスやwebサイトの利用度合いとユーザーのスキル
サービスのwebサイトの対象範囲の利用度合いとユーザーの該当分野におけるスキルに関しては、一般的には下記の表のように整理することができます。(調査の目的によっては該当しないケースもあります)
利用の度合い
利用頻度 | 低い方/高い方/中間の方 |
---|---|
利用期間 | 短い方/長い方/中間の方 |
利用の度合いごとに得られる情報の特徴
利用度の低い方 |
|
---|---|
利用度が中程度の方 | 利用度の低い方・高い方と比較することでターゲット理解がしやすくなる |
利用度の高い方 |
|
サービスやwebサイトをよく利用する人からは、満足度や使い勝手などの情報が具体的かつ豊富に得られることが期待できます。
逆に利用度の低い人からは、利用しない理由を得ることができる一方で、あまり利用していない分得られる情報は少ないと考えられます。
また、中程度の利用者も加えることで、高頻度・低頻度・中頻度の利用者で比較することも可能です。
ユーザーのスキル(経験値・熟練度・精通度など)の度合い
- 初めての方・不慣れな方
- 高い方
- 中間の方
ツールの利用マニュアルやヘルプページ、新入社員向けのコンテンツなど、ユーザーの該当分野のスキルによってニーズの強さが変わるものがあります。
例えばあるツールのヘルプページの場合、ツールに精通しているのでヘルプページを見る必要のない方、逆にツールに触らないのでヘルプページを見る必要のない方が存在しており、そういった方はヘルプページの対象外と言えます。
ヘルプページを見る必要があるのに利用していない人は、何らかの要因がネックになっている可能性があり、そのネックを調査し改善することで、ヘルプページの利用率向上が期待できます。
サービスやwebサイトの利用種別
コンテンツの閲覧者・発信者・管理者など利用目的が異なる層が存在する場合、各々で利用する理由・状況・背景も異なります。
こういったユーザーのタイプが複数存在するサービスやwebサイトでは、利用種別による属性もリクルート条件に加える必要があります。
サービス内の特定機能・コンテンツの利用有無
例えば、転職サイトで「スカウト」部分の改修を対象とした調査の場合、スカウトを利用したことがない人に話を聞いても、「スカウトを利用しない理由」については情報を得られたとしても、「スカウトを利用する理由やきっかけ」「実際の使用感」などについては得られません。
このように施策および調査目的の対象範囲がサービス内の特定機能・コンテンツ利用に大きく関連する場合は、その利用経験がある方、または利用意向がある方を選定します。
リクルート方針の落としどころと優先度設定
対象者の属性によって得られる情報の量や質が変わってくるため、リクルート方針に含める属性や詳細条件も盛りだくさんに設定したくなる一方で、属性によっては対象者の確保が難しいケースも少なくありません。
どの属性を優先するかは、サービスやwebサイトの戦略を踏まえ、各条件に対して調査目的に即した優先度を設定し、現実的なリクルート方針を設定する必要があります。
4. 対象者を手配する方法
何経由でアサイン?
調査対象者を手配する方法は、ルート・シーに調査をご依頼いただく場合には大きく2パターンあります。
- お客さまが手配(お客さまの社内スタッフ・インターン生・顧客など)
- ルート・シーが手配(ルート・シー社内スタッフ・外部リクルーティング会社経由で手配など)
2の場合は、アサイン費用が調査費以外に発生します。
お客さま側でアサイン頂く場合も、リクルート方針はルート・シーから提案させていただき、両社協議のもと確定し、その条件に沿った人物のアサインを進めていただく、といった流れで進めるケースがほとんどです。
1.お客さまが手配する場合
お客さまの社内スタッフ・インターン生
メリット | 日程調整がしやすい。事前のヒアリングやオリエンなどコミュニケーションが取りやすい。 |
---|---|
デメリット | 対象者が若年者、インターン生、社歴が浅い方の場合、会社や周囲に気を遣ってネガティブな発言がしにくい。 プロジェクト関係者の場合は関係者特有のバイアスのためターゲットとは異なる視点の発言が多くなり、調査目的の達成が難しくなる懸念がある。 |
お客さまの顧客
メリット | 対象サービスを実際に利用しているため、厳しい意見も含めてリアルな話が聞ける。 |
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デメリット | 直接の関係性があるため、お客さまか顧客のどちらかまたは双方が「今後に支障が出るかも」と気を遣い、得たい情報が得られにくいケースもある。また常連客でない場合、協力を得にくい。 |
2.ルート・シーが手配する場合
ルート・シー社内スタッフ
メリット | 日程調整がしやすい。事前のヒアリングやオリエンなどコミュニケーションが取りやすい。 |
---|---|
デメリット | ターゲットによってはリクルーティング精度が担保できないケースもある。 |
外部リクルーティング会社に発注
メリット | 選択肢が豊富であるため、精度の高いリクルーティングが可能。 |
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デメリット | 費用が高く、リクルーティングに必要な期間が長め。 |
スポットコンサルプラットフォーム経由で発注
メリット | ターゲットが特定業界の専門家など、エキスパートの場合に有効。 |
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デメリット | マッチングサービス利用で費用が上がる。マッチングサービスを利用しない場合、マッチング精度に不安がある。 |
5. リクルーティングの進め方
調査スケジュールと募集方法を決める
調査フェーズの期限が確定したら、調査のスケジュールを決めます。
調査本番の実施に間に合うかという点と、予算に合わせて手配の方法を選びます。
手配の方法はそれぞれ一長一短であるため、ルート・シーに調査をご依頼いただいた場合にはプロジェクト目的に適した方法をご提案させていただきます。
手配の方法をルート・シーにお任せいただいた場合は、下記のプロセスもまるごとお任せいただけます。
スクリーニングの実施
年齢・職業などセグメントの属性である程度対象者を絞った後、対象サービスの利用度など細かな条件については当てはまる人物をスクリーニング(事前のアンケート)によって特定していきます。
スクリーニングで絞る人数(候補者)は、調査対象人数より少し多めにしておくことで、調査実施日の日程調整がしやすくなります。
日程調整・調査実施環境の確認・リマインダー
スクリーニングで対象者の候補を出したら、調査実施日の日程調整を進めます。
その際オンラインで対象者の自宅などとつなぐ場合は、ネット接続やマイク音声の確認なども合わせてしておくとスムーズです。
多くの場合、対象者には仕事や学習の合間に調査に協力していただく形になります。イレギュラーな予定であるがゆえに失念されることもあり得るため、リマインドの連絡をしておくと安心です。
謝礼の提供
対象者が社外の人物である場合などは基本的に謝礼が必要となります。
本番実施時間の長さにもよりますが、1名60分の場合一般的には5千円前後、エグゼクティブ・エキスパートクラスの方であれば2万円以上になる場合が多いです。
6. リクルーティングの注意点
最後に調査対象者のリクルーティングにおける注意点をお伝えします。
リクルート方針と人選の精度
調査対象者は調査目的に沿った適切な人物でないと調査目的が果たせないため、リクルート方針が調査目的に適切かどうか、抽出した候補者がリクルート方針に合致した人物であるかが最も重要なポイントです。
そのため、リクルート方針および人選の精度については、極力丁寧に調査目的と照合し確認することが望ましいです。
個人情報の保護
候補者や対象者の個人情報が流出しないよう、人物リスト・事前アンケート・調査記録・録画データなど、情報の取り扱いについては細心の注意を払いましょう。 必要のない個人情報は取得しないよう心がけ、どうしても取得してしまうものに関しては、管理ルールを徹底しましょう。
事前の説明・敬意を持って接する
調査目的によって、調査趣旨の詳細を明らかにすることは難しい場合も多いですが、おおまかに対象者が理解しやすい範囲で、事前に趣旨をお伝えします。 また、コミュニケーションの際は快く対応してもらえるよう、敬意を持って接することが重要です。
7. まとめ:効果的なマーケティング~web施策を行うために、適切なリクルーティングを。
UXリサーチのリクルーティングは、リサーチの成功を左右する重要なプロセスです。リクルーティングのプロセスを丁寧に行い適切な人選をすることで、後続の施策実現のフェーズで必要となる範囲・粒度の利用状況・背景・ニーズを把握し、効果的なweb施策を実施するための貴重なインサイトを得ることができます。
ルート・シーのUXリサーチなら
ルート・シーでは丁寧なお客様ヒアリングや提供いただいた情報の確認・分析、デスクリサーチを通じて仮説ペルソナ(場合により仮説カスタマージャーニーマップ)を作成し、リサーチ要件に沿った適切なリクルート条件をご提案させていただきます。
UXリサーチにおいて、プロジェクトの目的に沿ったリクルート条件を設定することは、調査設計の中でも特に大切な部分です。それによってどのような情報が得られるのかが変わってくるからです。
「ヒト」から答えを見つけ出す。ビジネスの課題解決にはその前提となるリサーチから。
web専業25年のルート・シーはマーケティング×UXで思考と行動の深層をしぶとく追求し、市場分析・企業分析・UXリサーチ・アクセス解析などを通してお客さまのビジネスの芯に迫り、課題を根本から解決するwebサイト構築や運用方法をご提案いたします。