ユーザーインタビュー事例 – マーケティング施策やビジネス課題へのアプローチ
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こんにちは。UXリサーチャー(HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト)の野村です。
事業会社のマーケティング・営業推進・広報・総務・経営企画などwebサイト発注に関わる方の中には、下記のような課題をお持ちの場合もあるのではないでしょうか?
- マーケティング施策全体の方向性が見出せない
- web媒体の新規立ち上げや既存媒体改修で何から手を付けたらよいのかわからない
- 社内ステークホルダーのコンセンサスが得られずプロジェクトが円滑に進まない
そのような課題の解決に使えるのが、マーケティングやUXリサーチの代表的な調査手法であるユーザーインタビュー(デプスインタビュー)です。
この記事では、マーケティング施策やビジネス課題に対してユーザーインタビューがどのように有効かを、ルート・シーでの事例紹介を交えて具体的にお伝えします。
目次
※ユーザーインタビューの目的とする対象は一般的に製品・サービスやそれらのマーケティング施策など多岐にわたりますが、本記事ではweb施策・webサイトの話を中心にお伝えします。
※企業がアプローチしたいターゲットは顧客、求職者、投資家、サービスやwebサイトのユーザーなど、プロジェクトによって異なりますが、本記事ではひとくくりに「ターゲット」と記載します。
【事例1】広報施策の方向性が得られたケース
学校法人、特に大学のwebサイトを中心とした広報施策の方向性を探るインタビューを実施した。
調査概要
目的 | webサイトリニューアルやパンフレットの方向性を探る |
---|---|
事業分野 | 教育/toC |
対象者 | 対象校の学生 計7名 |
実施期間 | 約2か月(初回ヒアリングから報告書納品まで) |
成果物 | ペルソナ、シナリオ、広報の方向性、過去定量データの分析、報告スライド、ドキュメント形式の報告書 ※詳しくは下の「成果物」の節に記載 |
調査背景
10年以上前に構築された大学のwebサイトが更新を重ね情報構成が煩雑になり、ブランディング面でも刷新が必要だった。 webサイト設計の検討材料、またwebサイト以外の広報媒体の参考にもなる情報を必要としていた。
調査目的
- webサイトリニューアルやパンフレットの方向性を探る
- 学生募集のアプローチ方法を見いだす
調査対象
当校を受験する可能性がある方の志望校選びの背景やニーズ
調査内容
- 志望校選びの各工程における背景・状況を把握する
- webサイト等、当校の広報媒体の利用状況・ニーズを把握する
成果物
ペルソナ
事前調査から仮説ペルソナとして、偏差値や立地、校風などで選んでいるライト層とやりたいことや将来像がはっきりしているコア層の2タイプを作成した。インタビューの結果、事前に想定した通り、受験者はライト層とコア層という二つの層に大別できるということが確認でき、さらに解像度高く学校選びのリアルな状況・背景を知ることができた。行動の積極性、志望校への熱量、将来のイメージ像や過去の特定の体験の有無、そして特定の体験の有無がライト層とコア層の分岐点であることも含め、傾向や考え方にそれぞれ特徴があることがわかった。
シナリオ
ライト層とコア層それぞれが当校とのタッチポイントを得て入学に至る流れをシナリオとして作成。ライト層に関しては、現状では当校への入学動機が弱い状態であるため、ブランディング・マーケティング施策・タッチポイント作りに改善が必要ということがわかった。
広報の方向性
ライト層とコア層それぞれが当校を志望校とするまでに至る流れをつくるための施策の方向性を図解で提案した。
報告スライド
ユーザーインタビューの他にもアンケートなどの既存定量データから分析を行い、定性・定量の両面からユーザー像を浮き彫りにした。その定量分析と上記のペルソナ、シナリオ、広報の方向性の資料を含めたスライドを作成し、大学の担当者さまに口頭説明した。
ドキュメント形式の報告書
プロジェクトのステークホルダーが多いため、調査の前提から設計意図、導出した内容まで細かく言語化し、プロジェクト外の第三者でも理解できるエビデンスを含む報告書を作成した。
調査後の流れ
上記のアウトプットをwebサイトリニューアルプロジェクトの要件定義書に連携。ユーザー要求の中からwebサイトで実現可能なものを情報設計に活かした。
お客さまの声
対象校の志望者が求める情報、現状訴求しきれていない情報などを把握でき、サイトリニューアルにおける判断や、今後の広報施策の考え方においても有益な情報を得られました。
ユーザーインタビュー含め各調査を通じて得られたエビデンスは、関係者の理解を得る上でとても有効だったと思います。
まとめ
この調査とその後の分析・資料化を通して、当該校の広報施策における方向性が明確になった。
ライト層とコア層のニーズを詳細に把握した上で、それぞれに対応する施策および広報戦略全体の方向性を提案することで、サイトリニューアルやパンフレット作成など各種広報媒体で活かせる具体的な指針を得ることができた事例だった。
2. 【事例2】BtoCのwebコンテンツのあり方を導出できたケース
交通機関のwebサイト内のコンテンツ制作にて、特定の利用者層に合ったコンテンツを提供するため、ユーザーインタビューを実施した。
調査概要
目的 | 特定の利用者層向けのwebコンテンツのあり方を探る |
---|---|
事業分野 | 交通/toC |
対象者 | 特定の利用者層 合計3名 |
実施期間 | 約2か月 |
成果物 | 価値マップ、ユーザー要求事項、タスク分析、報告スライド ※詳しくは下の「成果物」の節に記載 |
調査背景
これまでいくつかのターゲット層にアプローチをしていたが、特定の利用者層に対しては、重点を置いていなかった。社会の風潮やターゲット層の将来性を考慮し、社内で特定の利用者層へアプローチする気運が高まっていた。オンライン・オフラインを問わず、特定の利用者層がサービスを利用しやすい環境を整備するため、webでの情報提供プロジェクトが決定された。
特定の利用者層について別のプロジェクトでペルソナが既に設定されていたが、サービス利用に関する背景・状況・ニーズについての情報はあったものの、「サービス利用のために情報収集をする」というタスクにおいては情報が不足していた。
調査目的
- 特定の利用者層が求めるwebコンテンツのあり方を探る
- サービスを利用するための情報収集に関するニーズを探る
など
調査対象
特定の利用者層の交通機関利用に関する状況・背景や情報収集のニーズ
調査内容
- 特定の利用者層のペルソナがサービス利用や、サービス利用のために情報収集する際の利用背景・状況を探る
- 必要な情報とあり方を探る
- タッチポイントを探る
上記3つの切り口から、webコンテンツに関する設計面および情報面のユーザー要求を導出する
成果物
サービス利用における情報収集の背景・欲しい情報・あり方を聞き出し、分析してユーザー要求事項としてまとめた。また、タスク分析も実施し、施策がカバーすべき対象範囲を検討する資料としてご利用いただいた。
対象者は多忙で時間が取れないため「すぐに欲しい情報を手に入れたい」といった意見や「サービス利用に関して周りの目が気になる」など情報収集以外のニーズも含め、サービス開発に関する幅広い情報が得られた。
価値マップ※(ユーザーニーズ・価値)
インタビューから得られた様々な背景・状況から、KA法※によってユーザーにとっての本質的な価値を導出。後続の情報設計フェーズに使いやすい下記のようなニーズを抽出することができた。
価値の例
ニーズ | 知らない場所でも時間をロスせず目的地に着きたい |
---|---|
含まれる価値 |
|
ユーザー要求事項(コンテンツ・情報のあり方)
KA法で導出したニーズの一角である情報提供のあり方に関する部分を、制作フェーズで理解・活用しやすいように分類。
求められる情報は対象が違うものとタイミングが違うものがあったため、以下のように整理した。
ユーザー要求分類例
対象が違うもの |
|
---|---|
タイミングが違うもの |
|
また、価値マップの中には求める情報そのものというよりは、情報のあり方に関する言及も散見されたため、画面の設計条件として上記とは別に整理した。
タスク分析(施策がカバーするべき対象範囲検討)
ユーザー要求は非常に幅広く、解決策も多岐にわたるため、タスク分析を行い傾向を分析した。 利用の計画段階から出発前~出発後に行うタスクとその際に調べる内容をそれぞれプロットし、全体像を可視化した。それをユーザーインタビューの結果と照合し、求められる情報とタイミングからコンテンツの重要度、施策がカバーするべき対象範囲を検討できるようにした。
報告スライド
上記の価値マップ、ユーザー要求事項、タスク分析の資料を含めたスライドを作成し、交通機関の担当者さまに口頭説明を実施。
調査後の流れ
導出した情報をもとにコンセプト立案、情報構造設計、コピーライティング、デザイン設計を行い、お客さまと詰めながら制作を進めた。ターゲットが求める情報と情報提供のあり方を導出できていたため、いずれの工程もスムーズに進めることができた。
お客さまの声
ユーザー目線でどのように情報を提供すると受け取りやすいのか、考える機会が持てたことは非常に有益でした。丁寧に分析していただき、提供された資料や説明も非常にわかりやすく、理解を深めることができました。
まとめ
この調査を通して、特定の利用者層向けのwebコンテンツのあり方を明確にし、サービス利用の際に求められる情報提供のあり方を具体的に導き出すことができた。
コンセプト立案からデザイン設計までの各工程において指針がある状態で進めることができ、ターゲットのニーズに沿ったコンテンツの提供が可能となりました。
3. 【事例3】イントラサイトのあり方を導出できたケース
調査概要
目的 | イントラサイトリニューアルの方向性を探る |
---|---|
事業分野 | 医薬品製造/社内向けweb |
対象者 | 各部署1,2名/合計15名 |
実施期間 | 約2か月 |
成果物 | 分析結果・具体項目案、ユーザーインタビュー報告書 ※詳しくは下の「成果物」の節に記載 |
調査背景
ある医薬品メーカーのイントラネットサイトにおいて、使いづらく、業務支援につながっていないとの理由から、刷新のニーズが高まっていた。
- ユーザーごとに利用方法が様々で、独自の解釈をしている
- サイトのあるべき姿が不明瞭
- 刷新するにしてもどこから手をつけていいかわからない
上記3つの課題を解決する必要があった。
サイト利用に関する定量データはあるものの、部署やユーザーごとの利用目的・行動・意識など定性的な情報が足りないという課題があった。
調査目的
リニューアル全体のゴール
- 利用者が必要な情報にアクセスしやすい情報共有プラットフォームにする
- 恒久的に活用しやすいイントラサイトにするための情報設計・ルール作成
上記のゴールに向けて、要求定義前に調査を行い、リニューアルの明確な方向性を見いだすため、ユーザーの利用背景・状況を知ることを目的とする。
調査対象
イントラネットサイト利用者の利用背景・状況
調査内容
ユーザーの利用背景・状況を把握することで、あるべきコンテンツの性質、サイトのコンセプト案、具体コンテンツ案を導出し、これらをもとに要件定義・情報設計を進めることができた。
サイト利用状況は部署ごとに傾向があると考え、各部署の業務概要を調べ、サイトに求める機能の仮説を立てた。
既存サイトのアクセス数から、既存サイトの利用度が高い事業部と親和性の高いコンテンツが充実していると仮定し、既存サイト利用の背景・目的、業務内容・状況、他のサイト・アプリケーションの利用などについて、質問案を設計した。
成果物
分析結果・具体項目案
KJ法※にてインタビュー結果の傾向を分析。対象者は立場や社歴により多様な使い方やサイト認識をしていることや、企業文化としてユーザー全体の業務意識が抽出できた。また、現行サイトの課題も明確となった。
マズローの欲求5段階説に類似した事項が職場環境ないし本サイトへの要求事項にあると見立て、社員の業務を支援し満足度を高める本サイトの方向性を示す段階型のモデル図を作成。各段階における具体的なコンテンツの例をブレストし、要件定義・情報設計の方向性のベースとした。
※KJ法:文化人類学者の川喜田二郎氏が考案したアイデア生成と問題解決の手法で、カードを使ってアイデアを収集・グループ化し、構造化して洞察を得る方法。
ユーザーインタビュー報告書
利用者・管理者が数多くの部門にわたっており、関係者が多いため、第三者でも理解できる調査背景・エビデンスを含む報告書を用意した。調査の前提から設計意図、導出した内容まで細かく言語化した。
調査後の流れ
得られた情報をもとに分析・モデル化・ユーザー要求定義・要件定義・情報設計に進むことができ、リニューアルするイントラサイトの存在価値担保に実質的に寄与できた。
お客さまの声
どこをどのように手をつけていいかわからなかった本プロジェクトですが、明確な方向性を見つけることができました。社内に制作物のエビデンスとして調査結果を提示することができ、プロジェクトをスムーズに進めることができました。公開前にはユーザビリティを検証しブラッシュアップを重ねたこともあって、公開後の評判も良く、効果的にサイト改善できたことを実感しています。
まとめ
この調査を通して、製造業のイントラサイトリニューアルにおける方向性を明確にすることができた。
各部署の多様な利用状況を踏まえ、分析で得られたインサイトをもとにイントラサイトの存在価値を再定義し、具体的なコンテンツ案を提案し、利用者のニーズに合った情報設計を実現できた事例となった。
4. ユーザーインタビューの活用用途
ここまでルート・シーの3つの事例を通して、ユーザーインタビューでどのような課題にどのように効果があるかをお伝えしてきました。
ユーザーインタビューは広範な対象を含めることができるため、web施策だけではなくマーケティングそのものや広報戦略全般の見直しなどの場面でも使える汎用性の高い調査です。
マーケティング戦略の見直し
ターゲットの関心動機や行動パターンをもとに、ターゲティングやプロモーションの方法を見直します。より解像度の高い顧客理解から施策を打ち出すことで、効果的な戦略にブラッシュアップすることができます。
web施策の方向性を見いだす
インタビュー実施後に導出したアウトプットを関係者間で見直し、問題がなければ、web施策の要求定義・要件定義、情報設計へと進みます。
コンテンツの充実化
ユーザーが求めている情報やコンテンツを追加し、webサイトの価値を高めます。例えば、最もユーザーが知りたい情報を目立つ位置に配置する、SEOを意識した書き方にする、ユーザーが共感する言い回しをキャッチコピーに採用するなど、ユーザーや顧客理解の解像度が高いからこそできる工夫を施すことができます。
ユーザーインタビューのweb施策における導入メリット・成果物などについて詳しくはこちらをご覧ください。
5. ルート・シーのインタビュー調査の流れ
ルート・シーにお問い合わせいただいた後は、まずはお客さまのビジネス課題や状況などについてお伺いし、お客さまのご要望・プロジェクトの規模感に合った調査を提案させていただきます。
インタビュー調査の流れについて、詳しくはこちらの記事で詳細解説しています。
6. まとめ:効果的なマーケティング施策~web施策を行うために
ユーザーインタビュー(デプスインタビュー)はアンケート調査やグループインタビューよりも利用状況・背景を深堀りでき、ビジネス目的・施策範囲に合わせて調査内容も柔軟にチューニングできます。
対象者が手配できれば、オンラインで手軽に実施できます。
貴社のweb施策や広報・マーケティング施策に「論拠が足りていない」「なかなか成果が出ない」「顧客理解の解像度が低い」と感じる方は、ぜひユーザーインタビューを取り入れてみてください。
「ヒト」から答えを見つけ出す。ビジネスの課題解決にはその前提となるリサーチから。
web専業25年のルート・シーはマーケティング×UXで思考と行動の深層をしぶとく追求し、市場分析・企業分析・UXリサーチ・アクセス解析などを通してお客さまのビジネスの芯に迫り、課題を根本から解決するwebサイト構築や運用方法をご提案いたします。
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