デザイナーの成長を加速させるUXリサーチの力

こんにちは。デザイナー兼UXリサーチャーの古川です。

私がUXリサーチの業務に携わるようになって早くも3年が経ちました。
リサーチに取り組むようになってから、これまで以上にデザインのクオリティを評価していただく機会が増えたと感じています。
この記事では、UXリサーチがデザイナーの成長にどのように寄与するのか、クオリティアップを目指すデザイナーやデザインに興味のある方に向けて、私がUXリサーチを経験して感じたメリットをご紹介します。

前提: UX、UXリサーチとは

「UX (User Experience)」とは、ISO9241-210*1の定義によれば、「プロダクトを使う前、使っているとき、使った後に起きる人の知覚や反応のこと」です(本書ではプロダクトもサービスとして捉えます)。そのため、UXとは必ずしもユーザーインターフェース(UI)を使っているときに限ったものではありません。また、UXを主眼においてサービスをデザインすることを「UXデザイン」といいます。
次に「リサーチ」は日本語で「調査」という単語に相当し、意味は「調べて明らかにすること」です。これらを合わせて、本書ではUXリサーチのことを「様々な場面で起きる人の知覚や反応(UX)について調べて明らかにすること」と定めます。

*1:ISO9241-210(インタラクティブシステムを対象とした人間中心設計に関する国際規格)

引用
松薗美帆、草野孔希 共著(2021)『はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために』株式会社翔泳社、p16

「UX」という言葉の定義や範囲は文献によって様々ですが、ルート・シーの提供するUXデザインでは「製品やサービスを使うユーザー」と「製品やサービスを開発、提供、運営する企業や組織」両方の満足を目指します。
ルート・シーでは、ユーザーが製品やサービスを使うときの体験を設計し、「ユーザー」と「サービス提供側」双方の満足度を高めるために、UXリサーチを多くのプロジェクトに導入しています。

本題:UXリサーチが、デザイナーの成長にどのように寄与するのか

UXリサーチは、ユーザーの行動やニーズを深く掘り下げるプロセスであり、デザイナーにとって強力なツールとなります。
ここでは、UXリサーチがどのようにデザイナーの成長に寄与するのか、具体的な利点と理由をお伝えします。

1. ユーザーニーズを考慮したクリエイティブが可能となる

UXリサーチを通じて得られるユーザーインサイトは、デザインの方向性を大きく左右します。UXリサーチの手法の一つであるユーザーインタビューを行うと、そのフィードバックをもとにユーザーが本当に必要としている機能やデザイン要素を取り入れることができます。
これにより、ユーザーの期待に応えるデザインを提供することができるため、結果としてユーザー満足度が向上すると言えます。

あるwebサイトのリニューアルプロジェクトでユーザビリティテストを実施した際、多くのユーザーがナビゲーションのカテゴリ分けやラベル名称が理解できず、目的のページにたどり着けないことがありました。ユーザビリティテストのフィードバックをもとに、ナビゲーションの構成を見直し、カテゴリ分けやラベル名称を変更したところ、ユーザーの操作性が大幅に改善しました。

このように、デザインの刷新だけでは解決できない問題を明らかにするのがUXリサーチです。ユーザビリティテストやユーザーインタビューなどから得たフィードバックをもとに、ユーザーが本当に必要としている機能やデザイン要素を取り入れることで、ユーザー満足度が向上します。

ユーザーニーズの本質を理解した上で設計したデザインを提供することで、クオリティが飛躍的に向上します。

2. デザイン決定の根拠が明確になる

デザインの決定において、鋭敏な感覚や豊富な経験は重要ですが、さらにデータに基づく根拠があることで主観的な意見の対立を避け、論点が整理されて建設的な議論ができます。
UXリサーチによって得られるデータは、デザインの根拠を強化するための重要なエビデンスです。これにより、デザイン提案の説得力が増し、プロジェクトメンバー間でのコミュニケーションが円滑になります。

例えば、webサイトの改修デザインを提案する際に、ユーザビリティテストから得たデータをもとに「このボタンの名称を○○に変更することにより、ユーザーの操作ミスが軽減する見込みです」と具体的な施策を示すことで、関係者の理解と支持を得やすくなります。
こうしたデータに基づくアプローチは、デザインの信頼性を高めるとともに、より効果的な課題解決を可能にします。

3. 視野を広げ、キャリアの幅を広げる

UXリサーチを通じて得られる知識やスキルは、デザイナーとしての視野を大きく広げます。
ユーザーの行動や心理を深く理解することで、デザインに対するアプローチがより包括的になります。これにより、デザイナーは単に見映えの良いビジュアルデザインだけでなく、ユーザー体験全体を見据えたデザインができるようになります。

また、UXリサーチのスキルを持つデザイナーは、UXデザイナーとしてキャリアの幅を広げることができます。UXリサーチャーやプロダクトマネージャー、デザインチームのリーダーなど、様々な役割に挑戦する機会が増えます。
私自身もUXリサーチの経験を積むことで、企画段階からプロジェクトへ参画する機会が増え、デザインフェーズだけではなくプロジェクト全体を俯瞰し提案する力が身に付いたと感じています。
UXリサーチの経験により、キャリアパスが多様化して、さらなる成長の機会を得ることができます。

UXリサーチを始めるための具体的なアクション

UXリサーチに興味を持ったが何から始めればいいか分からない方のために、気軽にUXリサーチを導入するためのアクションをご紹介します。

小規模なユーザビリティテストを実施してみる

ターゲットユーザーに近い、身近な人に製品やプロトタイプを使ってもらい、そのフィードバックを収集してデザインに反映します。

対象者の選定
友人や家族、同僚など、ターゲットユーザーに近い人を選びます。

タスク設定
ユーザーに実際に行ってもらいたいタスクを決めます。例えば、「このアプリで新しいアカウントを作成してみてください」など。

観察と記録
ユーザーがタスクを遂行する過程を観察し、困った点やフィードバックを記録します。

分析とデザイン反映
収集したフィードバックを分析し、どの部分を改善すべきかを決定します。その後、具体的なデザイン変更を行い、テスト結果を反映させます。

簡易ユーザーインタビューを行う

ユーザーインタビューは、ユーザーの声を直接聞き、デザインに反映させるための有力な手法です。簡易インタビューのポイントは以下の通りです。

インタビュー対象の選定
ユーザビリティテストと同様に、ターゲットユーザーに近い人を選びます。

質問の準備
オープンクエスチョンの質問を用意し、ユーザーが自由に意見を述べられるようにします。例えば、「この機能についてどう思いますか?」や「このデザインのどこが使いづらいと感じますか?」など。質問は具体的でありながらも、ユーザーが詳細に答えられるようにします。

インタビューの実施
インタビューは対面やオンラインで行い、ユーザーの反応や意見を詳細に記録します。録音やビデオを使用して、後で見返して分析できるようにします。また、インタビュー中はユーザーの表情や態度にも注意して、発話以外の情報も記録することが重要です。

分析とデザイン反映
収集したインタビューのデータを分析し、ユーザーのニーズや課題を明確にします。その情報をもとに、デザインの改善点を洗い出し、具体的な変更を行います。

仮説レベルでペルソナとカスタマージャーニーマップを作成する

ペルソナとカスタマージャーニーマップ作成は、ターゲットユーザーの具体像を描き、デザインプロセスに取り入れるための手法です。

ペルソナ作成
ターゲットユーザーの典型的なプロフィールを作成します。年齢、職業、趣味、目標、課題などを含みます。ペルソナは複数作成し、ユーザーの多様性を反映させると効果的です。
例えば、「30代のシステムエンジニアで、仕事の効率化を求めている田中さん」といったペルソナを設定し、その人の目標や日常的な課題を詳しく描きます。

カスタマージャーニーマップ作成
ユーザーが製品やサービスを使用する際のステップを視覚化します。各ステップでユーザーが感じる感情や課題を記録し、改善ポイントを洗い出します。ユーザーが最初に製品やサービスに触れるところから、利用する過程、目的を達成するまでの全体像を描くことが重要です。
例えば、前述の田中さんが新しいタスク管理アプリを使い始める過程を描き、アプリの登録、初期設定、タスクの追加、タスク完了の各ステップでの彼の体験を詳細に記録します。

分析とデザイン反映
ジャーニーマップを分析し、各ステップでユーザーが感じる課題や不満を把握します。
事前にインタビューやユーザビリティテストをしていない場合は、できれば仮説のペルソナやジャーニーマップをターゲットユーザーに近い人に、違和感がないか確認してもらうことが望ましいです。検証を挟んだ上で、課題を解決するためのデザイン改善を行い、ユーザー体験の向上を目指します。

UXリサーチをはじめる方におすすめの書籍

「いきなり実践はハードルが高い」と感じている方に、
参考までに、初学者におすすめの書籍をいくつかご紹介します。

UXデザインの教科書
著者: 安藤昌也

UXデザインの基本から応用までを体系的に解説しています。UXの理論やプロセス、具体的な手法に関する知識や、実践的なアプローチを学ぶことができます。UXデザインに関心のある初学者から実務者まで、幅広い層に役立つ内容です。
私は辞書のように、必要なときに用語や手法を調べるために使用しています。

はじめてのUXリサーチ
著者:松薗 美帆、 草野 孔希

UXリサーチの初学者向けに、その基本概念や手法、実践方法を解説しています。
現場で生きるノウハウが充実しており、具体的なリサーチ方法、データの分析、そしてそれらをサービス改善にどう活用するかについて詳しく説明しています。
初めて読む本の中では一番おすすめです。

Web制作者のためのUXデザインをはじめる本: ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで
著者:玉飼 真一

web制作者向けにUXデザインの基本から実践までを解説しています。ユーザビリティ評価、プロトタイピング、カスタマージャーニーマップなど、具体的な手法やツールの使い方を学ぶことができます。実際のプロジェクトで役立つ知識が学べるため、「とりあえず実践してみたい」という方は、読みながら始めると、スムーズに取りかかれるかと思います。

ユーザーインタビューのやさしい教科書
著者:奥泉 直子、山崎 真湖人、 三澤 直加、 古田 一義、伊藤 英明

ユーザーインタビューを行う際に役立つ実践的な書籍です。
初学者でも分かりやすく取り組めるように、基本的な手順や注意点を丁寧に解説しています。インタビューを成功させるためのヒントや、よくある課題とその対処法についても詳しく解説されているため、非常に参考になります。

さいごに:情報発信で広がるUXリサーチの輪

私は過去にプライベートでオンラインスクールに通い、UXについて学びました。学んだことや興味のある内容を社内のメンバーと共有していたところ、何気ない会話がきっかけでプロジェクトに関わる機会を得ることもありました。UXリサーチに興味がある方は、積極的に情報収集を行い、それを周囲と共有することをおすすめします。こうした取り組みが、案件に導入できるチャンスにつながるかもしれません。

UXリサーチを通じて、デザイナーとしての成長を実感し、よりユーザーにとって価値のあるデザインを提供していきましょう。

UXリサーチについて、さらに詳しい情報やプロジェクトへの導入をご検討されている場合は、ぜひ気軽に弊社までお問い合わせください。
UXの専門家がプロジェクトを成功に導くためのサポートをいたします。
ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

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