IE11のブラウザ対応についてフロントエンドエンジニアがまとめてみました(前編)

はじめまして。UX/UIチームでフロントエンドエンジニアを担当している北村と申します。

ルート・シーでは、2021年4月1日より、標準ブラウザからInternet Explorer 11(以降、IE11)を外すことになりました。

そしてこのIEは、数あるブラウザの中でも特に長い間大きなシェアを有してきた特別なブラウザであるため、これを機に記事を執筆し、今回の決定の背景やIEを振り返ろうということになり、私が執筆を担当させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。この記事を通じ、ブラウザや、それに対する我々制作側の考えなどを知っていただければ幸いです。
前編ではブラウザについて詳細にまとめ、後編にてルート・シーとしての方針と対策をお伝えできればと思います。

といっても、「標準ブラウザって何?」「IEって?」「そもそもブラウザって?」などの疑問を持たれる方がおられるかも知れませんので、もろもろ順を追って説明させていただこうと思います。

なお、今回の記事のきっかけとなったのはIE11ですが、記事の内容はIE全般に対するものですので、基本的には「IE」と記載させていただきます。ただ、バージョン固有の内容については「IE11」や「IE6」のようにバージョン番号を付けて記載させていただきます。また、同じ理由でOSのWindowsについても「Windows」や「Windows 10」と記載させていただきます。

ブラウザについて

ブラウザとは

web業界以外の方はあまり意識されないかもしれませんが、インターネット上のwebサイト(以降、サイト)やオンラインショップ、Gmail、Google マップなどを閲覧するには、webブラウザ(以降、ブラウザ)というアプリケーションを使う必要があります。それは、表計算をするためにExcelなど表計算専用のアプリケーションを使うのと同じ理由です。

そのブラウザは、入力されたURLのサイトへアクセスし、そのページに含まれている文章や画像、動画などのファイルを手元のパソコンへダウンロードします。そしてブラウザがそれらファイルの種類や内容を理解して大きさや位置、色、機能などを画面に反映することで、私たちはページを閲覧することができるのです。そのような機能を持つのがブラウザです。

ブラウザごとの差異

そして、ブラウザには多くの種類があります。

よく使用されているブラウザは、今回のテーマであるIE、そしてChrome、Safari、Firefox、Microsoft Edge(以降、Edge)でしょうか。ちなみにIEとEdgeを開発しているのはMicrosoftで、ChromeはGoogle、SafariはApple、FirefoxはMozilla Foundation(非営利団体)が開発しています。

しかし、基本的にブラウザの仕組みはそれぞれ異なるため、サイトの見た目や動作に差異がある場合が多いです。その差異の度合いは大きいものから小さいものまでさまざまです。また、そもそも本来の見た目や動作を実現するための機能に全く対応していない場合もあります。例えるなら、ある人物をカメラで撮影してもカメラによって微妙に色が違う場合がありますし、そもそも光に対するカメラの感度が悪くて人物が写るどころか真っ黒な写真になってしまうというようなものです。

このようにブラウザごとに差異があるため、全てのブラウザで同じ見え方や動作を実現することは結構難しいのです。

標準ブラウザとは

ブラウザの数が少なければ差異も少なくなりコストを抑えることができます。そのため、web制作会社では見え方や動作を保証するブラウザをいくつかの主要ブラウザに絞ることが一般的となっています。

そして、保証されたブラウザのことを「サポートブラウザ」や「対象(ターゲット)ブラウザ」などと呼んでおり、弊社では「標準ブラウザ」と呼んでいます。

2021年4月現在のルートシーでの標準ブラウザは以下になります。

Windows
Microsoft Edge (*1)
Firefox (*1)
Chrome (*1)

macOS
Safari (*1)

iOS
Safari (*1) (iOS (*1))

Android
Chrome (*1)

*1 常に最新バージョンを対応バージョンとします。

補足ですが、弊社が使用する用語「標準ブラウザ」の「標準」には、「お客さまのご希望がなくとも標準的にサポートする」という意味が含まれており、それらブラウザでの見え方や動作を保証しております。

軽い説明でしたが、これでブラウザの仕組みや種類、ブラウザごとの差異、そして弊社の標準ブラウザについてご理解いただけたかと思います。

そして、そもそものテーマであります、弊社の標準ブラウザから外すことになったIEについて記します。

IEの現状

まず、IEを標準ブラウザから外すことになった経緯を知っていただくため、IEの現状を記そうと思います。具体的には下記が挙げられます。

  1. その他主要ブラウザとの機能差が大きい
  2. サイト制作コストの高さ
  3. シェアの低さ
  4. 開発元の方針転換
  5. サポートを終了するサイトの増加
  6. IE特有のセキュリティリスク

一見するだけで芳しくない状況に見えますが、順に説明していきます。

その他主要ブラウザとの機能差が大きい

IEの最新バージョンであるIE11でさえ、その機能はその他主要ブラウザと比較して少ないです。
というのも2015年にIE11の後継ブラウザとしてEdgeがリリースされたことでIE11の開発が終了し、それ以降新しい機能(※1)が追加されていないためです。
実際に、2015年の公式ブログ記事「Windows10に搭載される2つのWebブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11」において、その旨が下記のように記されています。

セキュリティ対策などのマイナーアップデートは今後も行われますが、新機能が追加される予定はありません。

IEはもともとwebに関する仕様に準拠した機能の実装が少ないという特徴もありましたが、一方で主要ブラウザでは約1ヵ月ごとに機能を追加しているため(※2)、両者の機能差はより大きくなってしまいました。

ブラウザが対応している機能を確認できる「Can I use」というサイトの「Browser comparison」ページでは、対応している機能をブラウザ別で確認することができます。

(下記スクリーンショット)

このページの「Supported (no prefixes needed)」という見出し以降の表にて、それぞれのブラウザが機能にどの程度対応しているかどうかを確認できます。

表の左端に機能が記されており、右側に対応の度合いが「Yes(対応)」「No(未対応)」「Partial(部分的に対応)」の3種類で示されています。表の左端がIE11の列ですが、その他主要ブラウザと比較して「No」と「Partial」が多く、対応している機能が少ないことが見て取れます。IE11が機能を追加しないため、その他主要ブラウザとこれだけの差が付いてしまっているのです。

※1 ここでいう機能とはサイトを制作するためのものを指し、具体的にはHTML、CSS、JavaScriptおよびそれに付随する技術を使用するための機能になります。ですので、ブックマーク機能やパスワード保存機能などのブラウザ固有の機能を含みません。

※2 危険性が高いセキュリティパッチの提供は別のタイミングで行われる場合が多いです。

サイト制作コストの高さ

エンジニアの間では周知の事実ですが、IEをサポートするための制作コストは高いです。

一番の要因は、前述の通り「その他主要ブラウザとの機能差の大きさ」です。
その他主要ブラウザで可能なことをIEでも可能にするためのやりくり、例えば、ある動作をさせるためにコードを書いても、IEだけ同じ動作をしないため、IE専用のコードを別途書く必要があります。
要所要所でその工数(作業時間)が単純計算で2倍になってしまうのです。

別のコードを書く以外に、機能の差異を自動的に補ってくれるツールを導入する方法もありますが、機能差を完全に補えない場合や、そもそもIEを対象外にしているツールも増えてきており、結局別コードを書かざるを得ない状況が多くなってきています。

このように、機能差に対応するための工数は、特に高い技術を導入しているプロジェクトや、スケジュールが厳しいプロジェクトにおいては、エンジニアを圧迫する要因となります。

補足

MicrosoftはWindows10と共にリリースされたブラウザであるEdgeの開発は今後も行っていくことを明らかにしています。公式ブログ記事「Windows10に搭載される2つのWebブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer11」にて、そのコンセプトや思想が下記のように記されています。

Microsoft Edgeが最も大切にしているコンセプトは「Interoperability -相互運用性」です。Google ChromeやApple Safari、Mozilla Firefoxとも相互に運用できるブラウザであること、PCのサイトはもちろん、スマートフォンやタブレットを前提に制作されたサイトとも相互に運用できること、Edgeはこの相互運用性を保つことを前提に開発されています。
Web 標準から外れる変更に迫られたとき、我々はWeb標準の仕様、その他主要ブラウザの更新内容、相互に運用する挙動にあわせる。

つまり、IEはその固有の機能(※厳密にはWindowsの機能)の使用が前提となっているサイトでのみ使用してくださいと言われてるのです。例えば、会社内の業務システムやe-Taxソフト(WEB版)などでIE固有の機能が使われており、それらのサイトを使用するためのブラウザと位置付けられています。

シェアの低さ

IEのシェア数は他ブラウザと比較するとかなり低く、「StatCounter」によると、
2021年4月時点の日本国内におけるIE11のシェアは3.01%です。

Source: StatCounter Global Stats – Browser Version Market Share

恐らくこの3.01%のユーザーの多くは、ブラウザの種類に関心がなくパソコンに最初からインストールされているIEを使用されている方や、会社の規則でIEを使用せざるを得ない方、もしくはIE固有の機能に依存したシステムを使用せざるを得ない方かと思われます。このように、非積極的にIEを使用されているユーザーは常に一定数いますが、2019年1月のシェアは10%でしたので、シェアは減少傾向にあることが分かります。

しかも、あとで記しますが、IEの開発元であるMicrosoftがIEの使用を減らす方針を採っていますし、IEのサポートも、IE11以前のバージョンでは既に終了しており、IE11も基本的には2025年に終了することになっていますので、今後シェアが大きくなることはないでしょう。

以上のことから、IEを使用するユーザーは少なく、サイト制作やマーケティング面において、ターゲットとするには小さいのが現状です。

開発元の方針転換

開発元のIEに対するスタンスもIEの状況を厳しくしています。

IEの開発元はMicrosoftですが、そのMicrosoftの社員が2019年のブログ記事「The perils of using Internet Explorer as your default browser(邦訳:IEを既定のブラウザとして使用することの危険)」において、IEを既定のブラウザとしないように呼びかけています。

We’re not supporting new web standards for it and, while many sites work fine, developers by and large just aren’t testing for Internet Explorer these days. They’re testing on modern browsers. So, if we continued our previous approach, you would end up in a scenario where, by optimizing for the things you have, you end up not being able to use new apps as they come out.

邦訳:(IEは)新しいweb標準をサポートしていません。多くのサイトでは正常に動作していますが、最近では多くの開発者はIEでテストを行いません。そのため、もしIEを既定のブラウザとする従来のアプローチを続けると、あなたは新しいwebアプリケーションが登場しても使用できない可能性があります。

このブログ記事にある「既定のブラウザ」とはデフォルトのブラウザの意味で、Word文書内などのリンクをクリックすると自動的に起動するブラウザのことです。通常はOSに標準でインストールされているブラウザが既定のブラウザとして設定されています。WindowsですとIEであり、macOSですとSafariです。

つまりこのブログ記事では、ブラウザが必要なシーンでIEが起動しないようにしたほうが良いと述べているのです。なかなかの発言かと思います。。本当は自分たちが開発したブラウザを使ってほしいと思うものでしょうが、IEを使うことでユーザーが世の中の新しいwebアプリケーション(※3)を利用できないという不利益を得ないよう、あえて言われているのです。これが意味することは、IEは機能が不十分であり、新しいwebアプリケーションに対応できないということです。Microsoftの中の人が言っているので間違いないのではないでしょうか。

このブログ記事のように、IEの使用を控えるための啓蒙活動や施策は、Edgeがリリースされた2015年頃からMicrosoft自ら行ってきました。例えば下記のようなものです。

  1. EdgeをIE11の後継ブラウザとし、Windows10の標準搭載ブラウザとしたこと(※4)
  2. IE11を使用する場合はEdgeから起動させるなどの手間がかかる仕組みの導入(※5)
  3. 特定のサイトをIE11で表示しようとすると、Edgeが起動して表示する仕組みの導入(※6)
  4. Edgeの推奨や、IE固有の機能を使用しないサイト制作の推奨(※7)
  5. IEはIE固有の機能を使用して制作されたサイトでのみ使用することの推奨(※8)

また、Microsoft 365でも一部のアプリケーションでは既にIE11利用のサポートが終了しています。

このように、IE11の開発元であるMicrosoft自身が、その使用を控えるようなスタンスを採っています。

※3 webアプリケーションとは、アプリケーションとして使用するサイトのことです。ですのでサイトと言えばサイトなのですが、閲覧より使用するためのサイトという性格が強いです。例えばGmailやGoogle マップ、YouTube、Facebook、Twitter、Wixなどが有名ですね。日本企業が作ったものでしたら、freeeやBASEなどでしょうか。

※4「Windows 10に搭載される2つのWebブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11」の下記文章から、EdgeがIEの後継ブラウザであることが分かります。

このような技術革新や市場の変化、日々アップデートされるWeb標準仕様、セキュリティの脅威に対応すべく、Tridentも更新を繰り返してきました。しかし、根本的に対応するためには、新しいWebブラウザが必要になると決断し、Microsoft Edgeの開発に踏み切りました。
〜 省略 〜
Windows 10ではEdgeが規定のプログラムとして設定されています

※5 Edgeには「Microsoft Edge 従来版」と「新しい Microsoft Edge」の2種類があり、IE11を起動させる方法はそれぞれ異なりますが、どちらの方法でも起動に手間がかかるため、IE11よりEdgeを使ってほしいというMicrosoftの意図が感じられます。なお、Microsoftの公式ページでは、「Microsoft Edge 従来版」が「Microsoft Edge レガシー版」や「古いMicrosoft Edge」、「Microsoft Edge のレガシー バージョン」などと表記が不統一の場合があります。恐らく文脈によって使い分けているのでしょうが、同じものを指していますのでご注意ください。同様に「新しい Microsoft Edge」が「Microsoft Edge (Chromium)」と表記される場合もあります。

※6 Microsoftが管理しているIE非互換サイトのリストに登録されているサイトへIEからアクセスしようとするとEdgeが起動して表示する仕組みが導入されています。

※7 Microsoftのサイトの記事「Internet Explorer の今後について」の中で、IE固有の機能に依存したサイトからEdgeで閲覧できるサイトへの改修を勧めています。

現在の Web アプリケーションが古いブラウザーである Internet Explorer 固有の機能に依存している状態であれば、そうした依存性を無くし、最新のブラウザーである Microsoft Edge で閲覧できるように見直していただくことを、今からご検討いただく…

また、「Windows 10 に搭載される 2 つの Webブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11」においても同様の内容が記されています。

みなさまが作られるWebもModern Web -デバイスやブラウザに依存しないWebを目指して頂けると幸いです。

※8 Microsoftのサイトの記事「Internet Explorer の今後について」の中で、IEはIE固有の機能に依存したサイトにて利用し、それ以外ではEdgeの利用を勧めています。

Internet Explorer との後方互換性が必要な業務 Web システムには Internet Explorer を利用いただき、Internet Explorer でなければならない場合以外は Microsoft Edgeをご利用いただくことを提案してきました。

また、「Windows 10 に搭載される 2 つの Webブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11」においても同様の内容が記されています。

Interoperability -相互運用性とともにMicrosoftが大切にしているのが、「Compatibility -後方互換性」です。過去に開発された旧いIEを前提に設計されたWebシステムはどうなるのか?その後方互換性のために、Internet Explorerは引き続き提供されます。

サポートを終了するサイトの増加

また、IEをサポートするサイトが減ってきています。

例えばWindows 10をお使いの場合、IE11でYouTubeやFacebookなどにアクセスしてもEdgeが起動し、Edgeで表示されるようになっています。サントリーのサイトもEdgeが起動するようになっていますね。

また、先ほど少し記しましたが、Microsoftが構築したMicrosoft 365というwebアプリケーションのサイトですら、一部のアプリケーションでは去年の2020年11月30日にIE11のサポートを終了しました。そして、今年の2021年8月17日には全アプリケーションでIE11のサポートを終了することになっています。(※9)もちろんサポートが終了してもユーザーがIE11を使用し続けることはできますが、サポートが終了したサイトでは表示や動作に不具合が生じる可能性がありますので、IE11を使用するユーザーは少なくなるでしょう。

このように、世の中のサイトがIE11のサポートを終了する流れは今後さらに増えていくでしょう。

※9 下記ページにて、IE11や古いEdgeのサポートが終了することが記されています。
Microsoft 365 アプリの Internet Explorer 11 のサポート終了と Windows 10 での Microsoft Edge レガシー版のサービス終了

IE特有のセキュリティリスク

セキュリティリスクを考えたとき、IEを使うのは避けるべきと言えます。

その前にまず、ネットにおけるセキュリティについて軽く説明いたします。

コンピューターのOSやソフトウェアには、プログラムの不具合や設計上のミスに起因するセキュリティ上の欠陥があり、その欠陥を脆弱性と言います。そして、悪意のある人々はその脆弱性を利用してコンピューターへ攻撃をしかけてきます。彼らの目的は金銭目的や政治的目的など様々ですが、それにより世界中で被害が生じています。
その被害には下のようなものがあります。

  1. 不正アクセス
  2. マルウェア(ウイルスなど)への感染
  3. 情報漏えい
  4. データの破損や改ざん
  5. 詐欺
  6. 事故や障害
  7. 他のコンピューターを攻撃するための踏み台としての利用

このように、自分も被害を受ける上、更に被害を受けた自分のコンピューターが他人や社会に被害を与えてしまう可能性があるため、自分のOSやソフトウェアに脆弱性がある場合、脆弱性をなくす必要があります。そして脆弱性をなくすには、そのOSやソフトウェアを作成したメーカーなどが配布する修正プログラム(以降、セキュリティパッチ)を自分のOSやソフトウェアへ適用する必要があります。

しかしながら、法律に抜け穴がありそれを悪用する人が後を絶たないのと同じように、脆弱性を完全になくすことは難しく、被害を完全に防ぐことはほぼ不可能です。そのため、自分のOSやソフトウェアに関する情報を収集し、脆弱性があれば配布されるセキュリティパッチを適用していく必要があります。

そして、ここからIEのセキュリティリスクについてお話しします。

冒頭で記しましたように、IEを使うのは避けるべきと言えるのですが、その理由は何でしょう?

  1. リリース頻度の少なさ
  2. 脆弱性の数の多さ
  3. 脆弱性への対応の遅さ
  4. サンドボックスがない(※後述)

web業界の方にとって、これらは何となくIE的だと思われるかもしれませんが、実際に調べてみるとそうではありませんでした。

順に説明させていただきます。

リリース頻度

IE11に脆弱性がある場合、月1回のWindows Updateによりセキュリティパッチが適用されます。

それに対して、Chromeは6週間に1回であり、Firefoxは月1回ですので、IEのリリース頻度は他のブラウザと比較して少ないものではありません。(※10)

脆弱性の数

Microsoftが脆弱性を公開しているサイト「Microsoft Security Response Center」にて、私がIEに関連した脆弱性を検索すると2020年に41件ありました(※11)。下記スクリーンショットがその検索結果の一部です。なお、この件数にはIEに関連するもののIE自体の脆弱性でないものも含まれますので、実際はもう少し少ないと思います。

2020年の脆弱性をキーワード「Internet Explorer」で絞り込んだもの

それに対し、他のブラウザでは、Chromeが今年の2021年の1月と2月に配布したセキュリティパッチの件数が合計で42件(※12)あり、Firefox(※ESR版のFirefoxを含みます)が2020年に配布したセキュリティパッチの件数は34件(※13)です。もちろん脆弱性の深刻度はそれぞれ異なりますので単純な比較はできませんが、IEが特に多いとは言えないと思います。

※10 2021年Windows(※IEを含む)向けセキュリティパッチの配布スケジュール
セキュリティ更新プログラム リリース スケジュール (2021 年)

※11 IEを含むMicrosoft製品の脆弱性情報(※フィルタで絞り込むと分かりやすいです)
脆弱性 – セキュリティ更新プログラム ガイド – Microsoft

※12 Chromeの2021年1月19日と2月2日におけるアップデート
https://chromereleases.googleblog.com/2021/01/stable-channel-update-for-desktop_19.html
https://chromereleases.googleblog.com/2021/02/stable-channel-update-for-desktop.html

※13
Firefoxの2020年におけるセキュリティアップデート
https://www.mozilla.org/en-US/security/advisories/

脆弱性への対応速度

IEに脆弱性がある場合、基本的には月1回のWindows Updateによってセキュリティパッチが適用されますが、脆弱性の悪用状況次第では月1回のWindows Updateを待たずにセキュリティパッチを配布することになっています。この、脆弱性の深刻度に応じてすぐ配布する方針は他のブラウザと同様ですので、対応速度もIEに問題があるとは思えません。(※14)

※14 下記ページにて、月1回のWindows Updateを待たずにセキュリティパッチを配布する方針が記されています。
セキュリティ更新プログラム リリース スケジュール (2021 年)

危険性が高いと判断した場合は下記のリリース スケジュールに従わず例外措置をとり、セキュリティ更新プログラムを可能な限り迅速に公開します。

サンドボックスの有無

サンドボックスとは、サイトなど外部からダウンロードなどで受け取ったプログラムを権限が制限された領域で動作させることによって、その領域外のシステムが不正に操作されるのを防ぐ仕組みのことです。制限される権限というのは、ファイルの読み書きなどのシステムなどに悪影響を与えるようなものになります。この仕組みを持つことで、ダウンロードされたマルウェアなどをサンドボックスの領域で動作させつつ安全に解析することができます。

このサンドボックスはChromeやFirefoxには昔からありましたが、IEにはありませんでした。しかしIE7以降では「保護モード」、そしてIE10以降では「拡張保護モード」というサンドボックスの仕組みを持つようになりました。「保護モード」は基本的にデフォルトで有効となっています。「拡張保護モード」はデフォルトで無効となっていますが設定で有効にすることができます。このように「拡張保護モード」を有効にする手間はあるものの、現在ではIEだけがサンドボックスがなく危険だということではありません。(※15)

※15 下記ページに、IEのサンドボックスである「保護モード」と「拡張保護モード」の説明、そしてそれが効かない場合などの説明があります。
Internet Explorerの保護モードとは?

IE特有の事情

ここまで、IEのリリース頻度、脆弱性の数、脆弱性への対応速度、サンドボックスの有無を見てきましたが、IEが他のブラウザと比較して劣っているとは言えません。

しかしIEには特有の問題があり、それがIEの使用を避けるべき理由と言えるのです。
下記二点がその問題です。

  1. OSの重要な機能を使用されてしまう危険がある
  2. 脆弱性をなくすためのサポートが順次終了していく

順に説明いたします。

OSの重要な機能を使用されてしまう危険がある

WindowsにはActiveXという機能があり、IEを通じてこの機能を使うことができます。使い方は簡単で、webページにActiveXを使用するためのコードを記述するだけです。それにより、webページの表示や動作に対して演出を加えたり、操作性を向上させたりといったことが可能となり、魅力的なwebページを制作することができるようになります。

それだけ聞くとActiveXは便利で良いものに思えますが、ActiveXの危険性はOSの重要な機能を使えてしまうところにあります。そのため、悪用されるとさまざまなセキュリティ上の問題を引き起こします。例えば、ActiveXを使うとファイルの読み書きができるため、機密情報を読み取ってサイトへ送信したり、パソコンの設定ファイルを書き換え、その動作に不具合を生じさせることなどが可能です。

このような大きなセキュリティリスクは他のブラウザにはなく、まさにIEならではのリスクです。というのも、他のブラウザはActiveXを使用することができないからです。

ActiveXのセキュリティリスクは昔から問題となっていましたので、Microsoftも対策を講じてきました。例えばデフォルトで動作させなくしたり、古いActiveXコントロール(※ActiveXを使用したアプリのようなもの)をブロックして動作させなくしたり、サンドボックス機能でシステムが悪影響を受けないようにするなどです。

しかし、IEで表示されるダイアログや設定画面でユーザーがActiveXの動作を許可することができますし、IEやWindowsの脆弱性によっては設定しなくともActiveXを動作させることが可能なケースもあるかもしれません。

これがIEを使用すべきでない一つ目の理由です。

脆弱性をなくすためのサポートが順次終了していく

IEのサポート期間についての方針(以降、ライフサイクルポリシー)が2014年に発表され、2016年1月12日以降は、サポートされるOSで使用可能な最新バージョンのIEのみがMicrosoftのサポート対象と決定されました(※16、※17)。
この方針により、IEのサポートが順次終了してくことになりました。

実際に、Windows VistaやWindows 7、Windows 8で使用可能な最新バージョンであったIEのサポートはすでに終了しています(※18)。また、Windows 8.1とWindows 10のサポート終了日もそれぞれ2023年1月10日(※19)と2025年10月14日(※20)と予定されていますので、それらOSで使用可能なIE11のサポートも同時に終了される予定です。

もちろんサポートが終了した後もIEを使い続けることはできますが、問題はIEに脆弱性が発見されてもセキュリティパッチが配布されないことです。つまり、脆弱性を抱えたままIEを使うという危険な状況になるのです。実際に、2020年1月17日にIEに新たな脆弱性が公表されましたが(※21)、その3日前にサポートが終了していたWindows 7のIE11に対するセキュリティパッチは配布されませんでした。(※22)

それに対し、他の主要ブラウザでは現在のところセキュリティパッチの配布が終了される予定はありません。このようにセキュリティパッチの配布という重要なサポートが受けられないことは、他のブラウザにはないIE特有の大きな問題です。

これが、IEを使用すべきでない二つ目の理由です。

以上でIEの現状についての説明を終わります。
後編では、ルート・シーの方針と対応について説明いたします。

※16 Internet Explorer サポートポリシー変更の重要なお知らせ

※17 ライフサイクルに関する FAQ – Internet Explorer および Edge

※18 いよいよ完全終了へ。Internet Explorer(IE)サポート終了スケジュール

※19 Window 8.1のサポート終了日

※20 Window 10のサポート終了日

※21 更新:Microsoft Internet Explorer の脆弱性対策について(CVE-2020-0674)

※22 例外として、企業向けに提供されていた延長サポートを購入していた場合のみ、セキュリティパッチの配布を受けることはできたようです。
2020年1月15日に拡張サポートが終了した後も引き続きセキュリティ更新プログラムを受信するための手順

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